2Wayスピーカープロジェクト Śiva Project BS2-WG その3

 低価格でPreference rating 推定スコア6.0以上を目指す自作スピーカーを設計/製作するプロジェクト、その3です。嗜好度評価の大御所から小言を言われましたので、追加説明として目標は「ニアフィールド特性と疑似無響室特性の結果から推定されるPreference Rating (Estimated Preference Rating) が6.0以上となる事」とします。毎回この言葉を使うと大変見づらい記事となってしまいますので、今後はEPR(Estimated Preference Rating)とします。

 前回T/Sパラメータの測定まで終わりましたので、エンクロージャーのシミュレーションをしていきましょう。
エンクロージャー設計については、以下の「自作スピーカー エンクロージャー設計法 マスターブック」で詳しく解説しています。
■自作スピーカー エンクロージャー設計法 マスターブック


 VituixCADの使い方については以下のリンクで詳しく紹介しています。
■VituixCADを使ったエンクロージャーシミュレーション

目次

Preference ratingの低域評価

 設計を始める前に、Preference Ratingでは低域がどのように評価されているのかを確認しましょう。Olive氏の論文によれば、以下の式で与えられることが分かります。

Pref.Rating = 12.69 – 2.49 * NBD_ON -2.99 * NBD_PIR – 4.31 * LFX + 2.32 * SM_PIR

Olive, Sean & Welti, Todd & Khonsaripour, Omid. (2018). A Statistical Model that Predicts Listeners’ Preference Ratings of Around-Ear and On-Ear Headphones.

 ここで、低域特性はLFXでのみ評価されます。LFXは簡単に言えば低域が6 dB落ちた周波数を対数変換したものです。厳密に言えばListening windowとSound Powerと呼ばれる特性を算出 or 測定しなければなりませんが、今回は単純にエンクロージャーシミュレーションの値を用いることにします。

 仮にLFX以外の値が満点(NBD_ON = 0, NBD_PIR = 0、SM_PIR = 1)だとすると、

Pref.Rating = 15.01 – 4.31 * LFX

になります。実際には満点を取ることは不可能なので、NBD_ONを0.2、NBD_PIR を0.2、SM_PIRを0.8 程度と見積もって計算してみます。

Pref.Rating = 13.45 – 4.31 * LFX

 EPR 6.0以上を目指して設計する場合、LFXは約1.72以下、つまりf6が53.5 Hz以下である必要があることが分かりました。ここで見積もったLFX以外のスコアはかなり軸外特性が整っている条件ですので、厳しい戦いになりそうですね。エンクロージャー設計でなるべくLFXを下げておきたいところです。

 以上を念頭に置いて、設計していきましょう。

エンクロージャー形式

 自作スピーカーを設計する上で、エンクロージャー形式としてまず思い浮かぶのは密閉型とバスレフ型でしょう。そのほかトランスミッションラインやダブルバスレフ、バックロードホーンなどの形式もありますが、今回は低コストを目標としたプロジェクトのため、使用する木材が最小限で済む密閉型とバスレフ型の中から選択することにします。

密閉型

 密閉型でQtc=0.707になるエンクロージャー容積(2.48 L)のシミュレーションをしてみました。f6(-6 dBとなる周波数)が83.5 Hzと、あまり低域が伸びていません。Preference Ratingでは低域再生限界(LFX)がスコアに大きく響きますので、なるべくf6が低い値となるような設計にしたいものです。

バスレフ型

 今度はバスレフ型でSC4アライメントの条件でシミュレーションしてみます。容積は5.43Lと少し大きくなってしまいましたが、その代わりにf6が53.4 Hzと大幅に低くなっています。バスレフ型でもう少し容積を絞りつつ、なるべくf6を下げたシミュレーション結果が以下になります。

 f6は51.9 Hzと十分低くなりました。また、エンクロージャー容積も5Lとしましたので、標準的なブックシェルフスピーカーのサイズに収まります。実際にはこの特性にバッフルステップ補正がかかるのですが、これについてはネットワークで対応する予定です。

次回予告

 次回はFusion360を用いてエンクロージャーを設計していきます。

補足

 今回はweb連載という事で、かなり省略しています。より実用的な自作スピーカー設計の手法や作例については、好評発売中のマスターブックシリーズ各書にて詳しく解説しておりますので、ご参考いただければ幸いです。

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