接着剤は何を使うべきか

自作スピーカーのエンクロージャー製作において、板材をつなぎ合わせる接着剤の選択は作業性や出来上がりに影響を及ぼします。本稿では、エンクロージャー製作技術に定評のある“だし”さんに、その違いについて伺いました。

解説:だし 聞き手:熊谷健太郎

実は、僕はエンクロージャーの接着に「コニシ ボンド木工用」を一貫して使ってきました。黄色に赤のキャップのやつです(写真右端)。過去に作った大型3Wayスピーカーでも問題が生じたことはありません。しかし『自作スピーカー デザインレシピ集 マスターブック』を執筆する際に初めて海外製の「タイトボンド」を使いました。これが結構良い印象だったのですが、上級者を自負する僕でも接着剤の違いについてはそれまであまり考えたことがありませんでした。現在、さまざまな製品が出ているようですが、どのような違いがあるか教えてください。

ホームセンターで販売されているものだけでも多種多様な接着剤が存在するので、迷ってしまいますよね。結論から言うと、木工用と銘打ってあればどの接着剤でも問題ありません。では、なぜさまざまな製品があるかというと、使い勝手や仕上がりなど、接着剤の持つ特性を用途別に最適化しているからなんです。例えば、アッセンブリータイムや、接着剤の粘度、固まった時の色や硬さなど、種類によって千差万別です。

「アッセンブリータイム」という言葉が出てきましたが、これは何ですか?

アッセンブリータイムは、オープンタイムとクローズドタイムからなります。オープンタイムは接着剤を塗ってから接着面を貼り合わせるまでの時間です。オープンタイムを過ぎると接着強度が落ちてしまいますので、手早く作業を行う必要がありますね。それに対し、クローズドタイムは貼り合わせてから接着固定されるまでの時間です。クローズドタイム中はクランプで圧力をかけ続けることで、強い接着強度が得られます。

長いオープンタイムタイムと短いクローズドタイムをもち、かつ強度の高い接着剤が理想ですが、性能の良い接着剤はその分価格も上がります。また、これらの特性は、接着剤の成分によっても変化しますので、商品説明の成分表示からある程度推察することも可能です。以下が成分による接着剤の分類です。

成分の違いによる分類

成分タイプ製品名
酢酸ビニル樹脂乾燥硬化型/水性コニシ ボンド木工用
コニシ ボンド木工用速乾
ゴリラウッドグルー
有機高分子化合物乾燥硬化型/水性 タイトボンド オリジナル
タイトボンド 3 アルティメット
クロロプレンゴム乾燥硬化型/油性コニシ ボンド G17
ポリウレタン反応硬化型タイトボンド ポリウレタン
ゴリラ オリジナルゴリラグルー
エポキシ樹脂反応硬化型コニシ ボンド クイック5
コニシ ボンド クイック30

なるほど。成分の違いだけでも、たくさんの種類があるわけですね。確かにここに挙がっている製品はホームセンターでも目にしたことがあります。木工にはそれぞれの用途に応じて最適な接着剤を選ぶ必要があるということですね。木工用接着剤の製品詳細を解説していただけますか?

上記の表の中でも扱いが容易でエンクロージャー製作に向いている接着剤は、酢酸ビニル樹脂、有機高分子化合物の系統です。それぞれの商品を順に説明します。

商品詳細

コニシ ボンド木工用

誰でも一度は目にしたことがある、おなじみの黄色いパッケージの接着剤です。低コストで入手性も良く、ほど良い粘度で塗りやすく垂れにくいのですが、乾燥速度が遅いという欠点もあります。また、耐水性がありませんが、基本的に屋内に配置する自作スピーカーではあまり問題になりません。


コニシ ボンド木工用 速乾

こちらは速乾タイプで、標準品と比べて2倍の速度で乾燥します。小さい面の接着が多い場合は作業性が良くなりますが、その分オープンタイムも短いので、慣れないうちは標準品をオススメします。


タイトボンド オリジナル

こちらは有機高分子化合物の接着剤です。タイトボンドはアメリカのフランクリン社のブランドで、その中でもタイトボンド オリジナルは50年以上の歴史がある製品です。マスターブックシリーズの作例では、主にこの接着剤を使用しています。特に速乾性と乾燥時の強度に優れますが、速乾タイプでオープンタイムも5分と短いため、慣れないうちは扱いづらいかもしれません。通販サイトや東急ハンズなどの専門店で購入可能です。

※ちなみに色もそっくりですが、匂いも若干マヨネーズっぽさがありますので、絶対にマヨネーズの容器に入れて保管しないでください


タイトボンドⅢ アルティメット

先ほどと同じフランクリン社のタイトボンドですが、こちらはアルティメットと名の付く通り、さらに性能を強化した接着剤です。成分は同じく有機高分子化合物ですが、どうやらこちらは酢酸ビニル樹脂ベースのようです。オリジナルでは気温が低いと接着力が弱まる弱点がありましたが、アルティメットは8℃までの低温環境下で使用可能です。オープンタイムも10分となり、オリジナルよりも余裕を持って作業できますが、粘度が低く垂れやすいので作業時には注意が必要です。


ゴリラウッドグルー

最近ホームセンターでも見かけるようになったゴリラブランドです。潤滑油・KURE 5-56で有名な呉工業が輸入代理店です。成分はコニシ ボンド木工用と同じ酢酸ビニル樹脂ですが、防水性や接着強度、硬化後の硬度が強化されています。ホームセンターでも購入可能です。

写真で比較

色味の違いと乾燥後の状態

左から「タイトボンド オリジナル」「タイトボンドⅢ」「ゴリラウッドグルー」「コニシ ボンド木工用速乾」「コニシ ボンド木工用」

塗りたての状態
12時間乾燥後
塗りたての状態
12時間乾燥後

塗りたての状態では、タイトボンド オリジナルが黄みがかっており、タイトボンド3とゴリラは若干褐色です。コニシのボンドは真っ白ですね。12時間乾燥後には、すべてのボンドが硬化しており、MDFに書いた線が見えるほど透明になっています。コニシのボンドほぼ透明ですが、 タイトボンド オリジナル、タイトボンド3、ゴリラはかなり濃い褐色となりました。横からの図では、硬化後の収縮率が分かります。あまり有意な差は認められませんが、タイトボンド オリジナルが最も収縮したようです。

接着後の状態

接着剤の特性を見るために、はみ出しを拭き取らずに乾燥後の状態を比較しました。

タイトボンド オリジナル
タイトボンドⅢ
ゴリラウッドグルー
コニシ ボンド木工用速乾
コニシ ボンド木工用

タイトボンド3とゴリラは粘性が低いため、はみ出した接着剤が垂れているのが分かりますね。接着剤が垂れやすいと思わぬところに接着剤が付着し、後の処理に困りますので慎重に作業しましょう。また、タイトボンドやゴリラは硬化後の色が木材に似ているため、はみ出しもあまり気になりません。

接着剤ごとの特性の違い

製品名粘度固定時間 *1乾燥後の状態乾燥時の収縮率価格
コニシ
ボンド木工用
高い4時間透明低い安い
コニシ
ボンド木工用 速乾
高い2時間透明低い安い
タイトボンド
オリジナル
ふつう30分黄褐色高い高い
タイトボンド
Ⅲ アルティメット
低い30分 茶褐色高い高い
ゴリラ
ウッドグルー
低い20~30分茶褐色 普通高い

*1 ある程度の強度が得られる最短の固定時間です。最低でも24時間は接着部に力がかからないようにしてください。固定時間は長ければ長いほど接着強度が増加します。

なるほど。それぞれの違いが分かってきました。そういえば、タイトボンドはコニシとは使用時の違いも感じました。キャップ部分ですが、ねじ込みキャップではなく、引っ張って使うようでした。この透明キャップは外すのかと思いましたが…?

そうそう。最初、熊谷さん引っ張って外そうとしてた! あれは外してはダメです。使う時に少しだけ引っ張って、使わないときは押し込んで元に戻す。それだけですが、あの構造は塗りやすさにもつながっていたでしょう? 

そうでした。ちょうどキャップ先端が平らになっていて、接着剤を塗った時にうまく広がり、刷毛のように働くのですね。どうりで塗りやすかったわけだ。

タイトボンドの使い方

キャップについて

タイトボンドを使うと時は、キャップは上向きに引っ張る。使い終わったら押し戻して先端が少し飛び出した状態になればよい。押し戻しが不十分だと乾燥する恐れがある。

塗る量は?

接着剤の量は、圧力をかけるとはみ出る程度が良いでしょう。上の画像の量がちょうどそのぐらいです。多すぎるとはみ出た接着剤をふき取るのが大変ですし、少なすぎると接着力が弱くなります。貼り合わせる前にヘラなどで塗り伸ばしても良いですが、その分乾燥が早くなりオープンタイムも短くなるので注意が必要です。

次は圧着です。圧着する工具ですが、マスターブックの作例を作る時に使ったクランプが良かったですね。「クランプがなくて辞書を重しに接着した…」なんていう話、実は聞いたことありますけど… それから固定時間についてもポイントを教えてください。

辞書で圧着?? 誰がそんなことするんでしょうかね 笑。
全然ダメです。接着時には強い力を加えて固定する必要があります。ポイントを解説しましょう。

圧着について

圧着にはクランプを必ず使う

タイトボンドのカタログによれば、圧着時には最低でも100 psi、換算すると1 cm²あたり約7 kgもの圧力が必要と記載されています。単なる重しではこの圧力は不可能ですので、圧着には必ずクランプを用いましょう。クランプにはCクランプやFクランプ、ハタガネなどがありますが、木工用途であればクイックバークランプがオススメです。圧力は少し劣りますが、クランプ部の調整がスムーズで手早く作業でき、オープンタイムが短い接着剤でも余裕をもって圧着可能です。

また、エンクロージャー製作では板材をそれぞれ90度の方向に接着することが多いので、コーナークランプも2本ほど持っておくと便利です。簡単にコーナーを接着できるだけでなく、接着時のガイドとしても使えます。

補強材を垂直に接着するために用いたコーナークランプ。この写真の場合は垂直を得るためのガイドとして使っており、クイックバークランプでさらに締結していく必要がある。

また、クランプを固定する時間はできるだけ長く取ってください。理想は24時間ですが、律儀に守っているとなかなかエンクロージャーが完成しません。2〜3時間(タイトボンドは1時間)程度でクランプを外し、他の箇所の圧着作業を進めるのも良いでしょう。ただし、しばらくはクランプを外した箇所に力がかからないように注意してください。

僕は初心者の頃、接着剤のはみ出しはあまり気にかけていませんでした。エンクロージャーの内側へのはみ出しはちょうどシーリング的な良い役割がありそうですが、外側は仕上がりに影響を与えてしまいますね? 何かいい解決方法はありますか?

はみ出した部分は濡れたウエスですぐに拭き取るのが最良な方法です。少しでも接着剤の成分が残っていた場合、後から行う塗装に影響が出ることがあるので、しっかりと拭き取りましょう。また、はみ出したまま乾燥させて、スクレーパーなどで一気に削り取る方法もあります。

固定中にすること

濡れたウエスではみ出しを拭き取る

濡れたウエス、もしくは厚手のウエットティッシュでふき取りましょう。ティッシュやトイレットペーパーは絶対に使用しないでください。ボロボロになって接着面にくっ付き、残念なことになってしまいます。

サンディング時の利点

タイトボンドやゴリラなど硬化した後の硬度が高い接着剤は、サンドペーパーなどで削りやすいという利点があります。硬化後も柔らかいコニシのボンドはサンドペーパーでの加工に向いていませんので、なるべく接着時にふき取るか、硬化後にスクレーパーやカッターなどで削りましょう。

接着領域の右側半分のみ削った比較です。タイトボンドは比較的きれいに削り取ることができました。コニシは摩擦熱で縮れたようになりました。違いは歴然としています。しかし後から削るのはあくまで最終手段。はみ出しが少なくなるよう、製作作業では濡れたウエスを使って接着面を常にきれいな状態に保つことが秘訣です。

接着後にはみ出しを削るには

左:木片に巻きつけた紙ヤスリ/右:スポンジタイプのヤスリ

紙ヤスリは120番あたりの荒い目のものから使います。必ず固いものに巻きつけて使用してください。スポンジタイプは非推奨です。

熊谷さん、今回のヤスリがけテストで失敗があったんですって?

そ、そうですよ。これまでも内緒にしてるだけで、いろいろ失敗はしているんです。

今回のように、はみ出した接着剤を削るためには上の写真のようなスポンジタイプのヤスリは使ってはいけないことが分かりました。理由は2つあります。一つ目、削る時には紙やすりは固いものに巻きつけて使う必要がある、ということ。写真のように角材に巻きつけて使うか、市販のヤスリホルダーを使ってください。固いもので押し付けるのがポイントです。狭い範囲を作業する場合は写真のような小さなものを作ると使いやすいでしょう。学生の一夜漬け製作作業のように、指に紙ヤスリを巻いて使うのは言語道断です。意味がありません。二つ目、スポンジタイプに限りませんが、黒い紙ヤスリは板材を黒く変色させてしまうので使わないでください(ここで結果はお見せしませんよ)。

総論

今回さまざまな接着剤を使ってみましたが、僕はやはり、初心者向けとしてはコニシの木工用ボンドが使いやすいと感じました。ただし、速乾タイプは乾燥が早いのでオススメしません。

私もコニシの木工用ボンドが入手性も良く初心者にオススメだと思います。ただ、コニシのボンドはクランプ時間が長くかかるので、連続作業に向いていません。圧着作業に慣れてきたら、オープンタイムが短いタイトボンドもぜひ試してみてください。

確かに慣れれば試してもらいたいですね。あと、粘度が低かったゴリラやタイトボンドⅢは、作業中に板材を動かすと簡単に垂れてきてしまいました。何か対策はありますか?

そういう場合は薄く塗り伸ばせば多少は垂れにくくなります。逆にフラッシュマウントの板材の貼り付けなど大面積を接着する場合は、粘度が低いほうが塗り伸ばしやすいので、何種類か用意して用途によって使い分けるのも良いでしょう。

今回は長い内容になりましたが、だしさんにエンクロージャー接着のためのポイントを解説いただきました。どうもありがとうございました。

皆さんの製作がうまくいくことを願っています。エンジョイ!


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