T/Sパラメーターを算出する

スピーカーユニットと最適なエンクロージャーの大きさの図
ユニット(ウーハー)に最適なエンクロージャーの大きさは決まっている

スピーカーを自作する時に最初にすることは?

自作スピーカーにおける最初の段階は、どのようなユニットを使って、どのようなエンクロージャーを組むか想定することろから始まります。メーカーのスペックシートに記載されているT/Sパラメーターを元にして、まずは大まかなエンクロージャーの容積などを知るところから初めましょう。

「T/Sパラメーターとは何か?」「最適なエンクロージャー容積はどのぐらい必要なのか?」など理論的な話については、書籍『自作スピーカー エンクロージャー設計法 マスターブック』で全パラメーターを詳しく解説しているので参照してください。

実際に自分が使用したいウーハーやフルレンジユニットによって、エンクロージャーが小さかったり、大きかったりするので、自分が作りたいスピーカーに合わせたユニット選択が大切です。


自作スピーカー エンクロージャー設計法 マスターブック

『自作スピーカー エンクロージャー設計法 マスターブック』第3章「インピーダンス特性とT/Sパラメーター」P29~
各パラメーターを詳しく解説

ウーハーユニットの低域特性を知る

T/Sパラメーターはメーカーのスペックシートにも記載されているのですが、実測した方がより正確な値を得ることができます。使いたいウーハー(またはフルレンジ)を購入したら、インピーダンス特性を測定します。インピーダンス特性のカーブから、そのユニットの低域特性を数値化したT/Sパラメーターが算出できます。このパラメーターを元にして、最適なエンクロージャーの容積(Vb)やポート共鳴周波数(fb)が初めて設定できます。T/Sパラメーターなしにエンクロージャーの設計はできないと言っていいでしょう。

スピーカーの購入前に低域の特性を詳しく調べるには、スペックシートのT/SパラメーターをVituixCADなどのスピーカー統合設計ソフトウェアに入力し、低域の再生能力を調べることもできます。

FOSTEX FE103NVのT/Sパラメーター
FOSTEX FE103NVのT/Sパラメーター(FOSTEXスペックシートから転載)

Break-in

インピーダンス特性はユニットの電磁気的な要素と機械的な要素が混じり合った状態を表しています。この特性を数値化するT/Sパラメーターは、正確にインピーダンス特性を測定して算出することが重要ですが、ユニットの機械的要素というのは、新品の状態からある程度鳴らし込んだ状態では変化することがあります。具体的には、あらかじめ振動板を大きく振幅させるとエッジやダンパーなどの特性がやや変化した後、安定した状態に落ち着きます。一般的にウーハーなどでは25Hzほどの低周波の信号を数時間入力し、慣らし運転を行います。この操作をBreak-inと呼び、T/Sパラメーターを算出するためのインピーダンス特性の測定をする前に必ず行います。(注意:ツイーターでBreak-inの操作は行わないでください

ウーハーの慣らし運転(Break-in)

では、Break-inはどの程度必要なのでしょうか? 大きな振幅を少し加えるだけで良い、という説もあれば、十数時間必要との意見もあります。『自作スピーカー エンクロージャー設計法 マスターブック』第7章−03「ウーハーのT/Sパラメーター測定」P110~では、Scan-Speakの15cmウーハー、15W/8434G00のBreak-inを24時間ごとにT/Sパラメーターを測定し、その変化を掲載しています。一例ではありますが、参考にしてください。

初めにインピーダンス特性の測定をする

T/Sパラメーター算出にはフリーエアと負荷状態の2つの測定値が必要

まずはユニット裸の状態でインピーダンス特性を測定します。次に、負荷をかけた状態での測定を行います。負荷をかける方法には以下の2つがあります。

デルタマス法

デルタマス法(Delta mass method)は振動板に重りを付加する方法です。付加する重りは正確な重さが分かっている必要があります。コインや粘土などを用いるケースがありますが、振動板の種類によっては取り付けが困難であったり、傷を付ける恐れがあります。

デルタマス法
デルタマス法 1円玉を振動板に貼り付けている

デルタコンプライアンス法

デルタコンプライアンス法(Delta compliance method)はユニットを密閉箱に取り付ける方法です。実質的な空気容積の値はあらかじめ正確に算出しておく必要があるため、ユニットのマグネットの容積なども考慮する必要があります。

デルタコンプライアンス法
デルタコンプライアンス法 密閉箱の体積算出を容易にするためにユニットは反対向きに取り付けている
LIMPでのインピーダンス特性の測定。信号はステップサイン波を使っている。
黄線:フリーエア化でのインピーダンス特性 / 緑線:密閉箱でのインピーダンス特性

T/Sパラメーターを算出する

次に、LIMPなどのソフトウェアに2つのインピーダンス特性のデータを読み込み、T/Sパラメーターを算出します。

T/Sパラメーターの算出
LIMPに2つのインピーダンス特性を取り込みT/Sパラメーターを算出したところ
『自作スピーカー エンクロージャー設計法 マスターブック』より抜粋

パラメーター数値(例)単位
fs54Hz
Qts0.34
Qes0.37
Qms4.55
Vas8.15L
算出されるT/Sパラメーターの例

T/Sパラメーターが算出できたら、VituixCADなどのスピーカー設計統合ソフトウェアに値を登録して、ユニットの情報を作りましょう。あとはソフトウェアが自動計算してくれます。何リットルの容積(Vb)のエンクロージャーが最適なのか、バスレフの共鳴周波数(fb)を何ヘルツに設定したらいいのか、簡単に分かります。

VituixCADの「Enclosure」機能で算出したFOSTEX FE103Enの低域特性シミュレーション。T/Sパラメーターはプリセットの値を使用し、SC4/C4アライメントを採用しています。青線がユニットの音圧、赤線がバスレフポートの音圧で、グレー線が総合特性を示しています。ちなみにこの時のエンクロージャー容積(Vb)は2.7リットル、ポート共鳴周波数(fb)は92Hzと算出されました。

インピーダンス特性の測定方法は書籍『自作スピーカー 測定・Xover設計法 マスターブック』、T/Sパラメーターの詳細は『自作スピーカー エンクロージャー設計法 マスターブック』で詳しく解説しています。印刷版と電子版で発売中。