パッシブネットワークを知る ~ネットワークとインピーダンス~

 マスターブックではこれまで、パッシブ素子(抵抗、コイル、コンデンサ)を使用したネットワーク設計を紹介してきました。パッシブネットワークは自由度が低い、微調整が難しいなどのデメリットがありますが、スピーカー単体で完結しているため、様々なオーディオシステムと組み合わせやすいというメリットもあります。また、複雑怪奇なネットワークにならない限りは、製作も容易です。
 このシリーズでは、私個人がパッシブネットワークを設計する上で気付いたこと、得た知見などを少しずつ連載していきます。

※この記事は、『自作スピーカー デザインレシピ集 マスターブック』、及び他マスターブックシリーズにて紹介した知識を前提としています。マスターブックシリーズと合わせてお読みいただくことをオススメします。

目次

インピーダンス測定の必要性

 パッシブネットワークを設計する場合、スピーカーのインピーダンス特性を測定する必要があります。ではなぜインピーダンス測定が必要なのでしょうか。その理由は以下の2点が挙げられます。

  • ネットワークへの影響
  • アンプへの影響

 それでは、それぞれ実例を交えながら紹介しましょう。

ネットワークへの影響

 マスターブックシリーズでも言及していますが、いわゆる『ネットワーク計算式』ではインピーダンス特性は一定値として計算しています。そのため、ネットワーク計算式で得られた定数は実際のパッシブネットワーク設計においては目安程度であり、あまり役に立ちません。その理由としては、スピーカーの出力音圧特性がフラットでないこと、そしてインピーダンス特性がフラットでないことが挙げられます。

インピーダンス特性によるシミュレーション結果の違い

 それでは例として、同じネットワークでインピーダンスを周波数によらず一定値とした場合にどうなるか見てみましょう。

赤:8Ω一定 青:測定値

 100 Hzから200 Hz、及び2 kHz~3 kHzにかけ、1~3 dB程度の差分が生まれています。つまり、インピーダンス特性を考慮せずにネットワークを設計してしまうと、実際の測定値はシミュレーション結果から乖離してしまうのです。では、なぜインピーダンス特性がネットワークに影響するのでしょうか。

なぜ影響するのか

 例として、1次のローパスフィルタを挙げてみましょう。電気回路において、コイルはインダクタンス(誘導)として作用するため、周波数によってインピーダンス特性が変化します。

1次のローパスフィルタ

 このままでは説明が難しいので、簡単にするために周波数が3 kHzの時を考えましょう。3 kHzの交流電圧が印加されたとき、コイルのインピーダンスは約18.8 Ωになります。このことを用いて、先ほどの回路を抵抗に置き換えてみましょう。(説明を簡単にするために、コイルの直流抵抗は無視しています。)

 だいぶわかりやすくなってきました。さらに、スピーカーのインピーダンス特性は3kHzで10.7Ωになりますので、これも置き換えてみます。

 ここまでくると理解しやすくなってきましたね。この時にスピーカーにかかる電圧は、2.83 × 10.7 / (18.8 + 10.7) ≒ 1.03 Vになります。もしインピーダンスを8 Ω一定としてしまうと、スピーカーにかかる電圧は約1.13Vとなりますので、いざ実装するとシミュレーションと測定結果が合わない、なんてことになってしまうのです。

 このインピーダンスによるネットワーク回路への影響は、ネットワーク回路の特性に大きく左右され、先ほどの例では最大3dB程の差分が生まれました。ネットワークのフィルター特性と周波数特性を並べてみると、関係が良くわかります。

 このような理由のため、ネットワーク設計時には周波数特性のほかにもインピーダンス特性の測定が必要なのです。かく言う私も、スペックシートから読み取ったインピーダンスでネットワークをシミュレーションして特性を追い込んだ後に、インピーダンスを実測データに差し替えると特性が全然違っていて、頭を抱えた……なんてことがありました。

アンプへの影響

最低インピーダンス

 マスターブックシリーズでは、アンプへの影響を考えて最低インピーダンスを気にしながら設計していました。半導体アンプでも、能率に対してインピーダンスが低すぎると無駄な電流が流れ発熱の増大を招きますし、真空管アンプではインピーダンス整合が取れていないと出力菅の動作に影響します。

あまりよろしくないインピーダンス特性

真空管アンプなどでの使用も考えた場合、最低でも3 Ω以下にならないよう心掛けたほうが良いでしょう。また、ネットワーク回路を工夫して、高域のインピーダンス変動を抑えるのも効果的かもしれません。また、VituixCADにはOptimizeの画面で最低インピーダンスを設定することができますので、活用してみてください。

EPDR (equivalent peak dissipation resistance)

 EPDRとは、位相を考慮した場合の実際にアンプにかかる負荷を表したもので、stereophileでも紹介されています。VituixCADでは、インピーダンス特性のグラフ上の右クリックから表示することができます。

 ここで、赤のインピーダンス特性と紫のEPDRとの差は、スピーカーとネットワークの容量/誘導成分によるものです。ネットワーク回路を設計する際には、インピーダンス特性だけでなくEPDRも参照するほうが良いかもしれませんね。

※詳しくはstereophileの記事に譲りますが、EPDRは理想B級アンプを想定した指標ですので、一般的なAB級アンプのみに適用できるとされています。とはいえ、大きな位相回転はどのアンプに対しても優しくないので、なるべくフラットに近いネットワーク設計を心掛けたいものです。

まとめ

 今回はネットワークとインピーダンス特性の関係について紹介しました。次回の内容はまだ決まっていませんので、コメント欄に記載いただければ参考にさせていただきます。

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