2Wayスピーカープロジェクト Śiva Project BS2-WG その7

 低価格でPreference rating 推定スコア6.0以上を目指す自作スピーカーを設計/製作するプロジェクト、その7です。前回は測定が終わりましたので、今回はネットワーク設計を検討します。ここからはかなり専門的な内容に踏み込んでいきます。

※前回「VituixCADでは指向性が1 °刻みに丸められるが大丈夫か?」という疑問を見かけましたが、EPRへの影響は軽微と考えております。

 パッシブネットワーク設計についてはマスターブック各書で紹介しています。また、「自作スピーカー デザインレシピ集 マスターブック」 デザインレシピ集では作りやすさを考慮したネットワーク回路と製作例を掲載していますので、是非チェックしてみてください。

目次

Preference ratingの中高域評価

 ネットワーク設計の検討を行う前に、エンクロージャー設計の検討時と同様に、Olive氏の論文のPreference Ratingの式を確認しましょう。

Pref.Rating = 12.69 – 2.49 * NBD_ON -2.99 * NBD_PIR – 4.31 * LFX + 2.32 * SM_PIR

Olive, Sean & Welti, Todd & Khonsaripour, Omid. (2018). A Statistical Model that Predicts Listeners’ Preference Ratings of Around-Ear and On-Ear Headphones.

 ネットワークの影響を大きく受けるスコアは以下の3つになります。

  • NBD_ON
  • NBD_PIR
  • SM_PIR

 それぞれの詳細な説明はこちらに記載されていますので、ここでは簡単に説明します。

NBD_ON

 NBDはNarrow Band Deviation、ONはOn-axisを表します。 Narrow Band Deviationは無理やり日本語に訳すと「狭帯域偏差」になります。具体的には、100 Hz-12 kHzを1/2オクターブごとに区切ったのちに音圧偏差を計算し、さらに平均を取った値がNBDです。つまるところ、ピークディップが存在するとNBDが悪化すると考えてOKです。On-axisはその名の通り軸上周波数特性のことです。

NBD_PIR

 同じNBDでも、こちらはPIR : Predicted In-Room Amplitude ResponseのNBDです。PIRはANSI-CTA-2034-Aで説明されていますので、そちらを参照ください。乱暴に言うと、一般的なリスニングルーム(ただし欧米基準)の部屋特性を加味した拡散音場特性(部屋の反射を含む特性)の予測値です。PIRは軸外周波数特性に大きく影響されますので、軸外特性にピークディップが生じないように設計することでNBD_PIRを小さくすることができます。

SM_PIR

 SMはSmoothnessのことで、Preference ratingでは100 Hz-16 kHzにおいて最小二乗法でフィッティングした際の誤差から算出されます。NBDでは1/2オクターブという狭帯域での偏差を計算していましたが、こちらは全体的に見てどれだけ直線に近いかを表します。軸外が高域に向かって直線的に減衰していると、高スコアが狙えます。

高Preference Ratingを狙ったネットワーク設計

 以上のことを念頭に置き、高スコアを狙うための設計指標をまとめました。

  1. 100 Hz-12 kHzにおける軸上周波数特性をスムーズにする
  2. 100 Hz-16 kHzにおけるPIRをスムーズにする

 かなり分かりやすくなりましたね。結局のところ、軸上とPIRをスムーズにすれば高スコアが狙えるということです。また、軸上 は12 kHz、軸外(PIR)は16 kHzまでしか計算に入りませんので、そこから上の周波数は無視できます。ほんまか?

それではクロスオーバー周波数の選定に進みましょう。

クロスオーバー周波数の選定

 クロスオーバー周波数の選定に便利なのがDirectivity index(DI)という特性です。こちらに色々と説明がありますが、数値が高いほど指向性が狭いと考えればOKです。DIはネットワークを組む前でも軸上をフラットにした際の指向性が推測できるため、クロス周波数を決める際に便利な特性です。DIがスムーズにつながる周波数でクロスオーバーを組むことで、おのずとPIRもスムーズな特性が得られます。スムーズにつながらない場合はそもそもユニットが詰んでいるエンクロージャー形状が悪いので、一から作り直す必要があります。

 VituixCADでTW/WFをそれぞれ直結し、Directivity index(DI)を出力してみました。WFは3 kHzまでスムーズですが、3.5 kH付近に大きなピークがあります。逆にTWは3 kHz付近にディップがあるので、この辺りをクロスオーバー周波数とすればうまい具合に打ち消しあってくれそうですね。とりあえず3.5kHzとしてネットワークを組んでみることにします。

次回予告

 クロスオーバー周波数が決まりましたので、次は実際にネットワーク回路を設計していきます。果たしてEPR6.0は達成できるのでしょうか。

補足

 今回はweb連載という事で、かなり省略しています。より実用的な自作スピーカー設計の手法や作例については、好評発売中のマスターブックシリーズ各書にて詳しく解説しておりますので、ご参考いただければ幸いです。

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