2Wayスピーカープロジェクト Śiva Project BS2-WG その10

 低価格でPreference rating 推定スコア6.0以上を目指す自作スピーカーを設計/製作するプロジェクト、その10です。前回はネットワークを製作しましたので、いよいよ最終測定を行います。果たして目標値を超えることができたのでしょうか。

 スピーカーの測定については、「自作スピーカー 測定・Xover設計法 マスターブック」で詳しく解説しています。気になる方は是非チェックしてみてください。 測定が難しい、困難な方には、測定無しでも理論に沿ったスピーカーが自作できる「自作スピーカー デザインレシピ集 マスターブック」 がおすすめです。

目次

インピーダンス測定

 ネットワーク回路が回路図通りに作成されているのか不安な場合は、インピーダンス測定の結果から判断するのがオススメです。Far Field測定の結果からもある程度はわかりますが、測定時のミスなのかネットワーク回路のミスなのかの切り分けができません。という事で、インピーダンス測定結果をシミュレーションと比較してみます。

 黄色の線が測定値です。低域のズレは、バーンインしばらく経っているため、ダンパやエッジが少々硬くなった影響でしょうか。また、20kHzからインピーダンスが低下しています。この原因はちょっとわかりませんね……

Far Field測定

 続いてFar Field測定結果です。まずは軸上を比較してみましょう。

 シミュレーション結果とほぼ一致しています。60 Hz~120Hz付近にかけて最大1 dB程音圧が下がっていますが、これはWFのネットワークコイルが空芯コイルで、合わせて直流抵抗が1.7 Ω程存在することが原因です。予算に余裕があれば、コアコイルを使うことで低域の減少を最小限に抑えることができるでしょう。

 また、500~800 Hz付近に緩やかなディップができていますが、どうやらリアポートから漏れた音が影響している様子です。ネットワークの影響で青の裸特性は500 Hzで-3 dB、1kHzで -5dBになることを考慮すると、1 kHz付近のピークは一致しますが、600~700 Hzのピークが一致しません。何度か吸音材の場所を変えて測定してみましたが、NW搭載前のように共振が消えることはありませんでしたので、吸音材が絶妙な配置だったのでしょう……。再現性のためには、吸音材の位置もしっかりと記録しておく必要がありますね。

青:裸特性 緑:最終特性

Spinorama

 それではEPRを算出するためのSpinoramaを見てみましょう。Spinoramaについてはあまり詳しい説明をしていなかったので、この機会に軽く解説します。

Reference angle (ON-axis) / Listening window (LW)

 Reference angleは軸上周波数特性を示します。一般的にメーカーの特性表に記載される周波数特性がこのReference angleに該当します。オーディオルームで聴く場合、部屋には椅子が1台のみでリスナーの位置が固定されているので、頭を動かさなければ直接音はReference angleに等しくなるでしょう。そのため、オーディオルームに配置する場合はReference angleが重要になります。

 それに対し、Listening windowは軸上と水平方向に±30°、垂直方向に±10°の範囲の周波数特性の平均値です。リビングなどにスピーカーを配置した場合、リスナーは3~4人掛けのソファに座ることになります。また、リスナーの身長も異なりますので、ある程度耳の位置にばらつきがあります。そのため、リスナーの位置が固定されないような環境では、Listening windowが重要になりますね。

 また、 Reference angleとListening windowの差分にも目を向けたいところです。今回作成したスピーカーの場合、Reference angleとListening Windowを比較すると5 kHz~7 kHz、15 kHz付近に2dB 程度の差分が存在します。そのため、視聴位置がずれると直接音が変動してしまいます。今回の場合はWavuguideのスロート部の形状、および振動板のプロファイルに由来する特性の乱れによって、差分が生じていると思われます。これらを根本的に解決するには曲率の小さい振動板のドームツイーターを使った上で、Waveguideの形状を綿密に設計する必要があり、非常に困難です。この辺りを完璧にコントロールしたツイーターがあれば良いのですが……
→申し訳ありません、 5 kHz~7 kHz はエッジディフラクションでした。10~15 kHzのピークディップがWaveguide起因です。下図はエッジディフラクションのシミュレーション結果で、5~7 kHz付近のピークが一致しています。今回はコストの都合上バッフルの角は丸めませんでしたが、丸めることでより低いNBD_ONを出すことが可能になるでしょう。

Early reflections (ER)

Horizontal
Vertical

 Early reflectionsはスピーカーを部屋に置いたときの壁、床、天井の各6面で一回反射してリスナーに届く音の平均を表します。当然、部屋の形状やスピーカーのセッティングによって反射音の角度は少しずつ異なりますので、ある一定の角度範囲から求めた平均として定義されています。

 Early reflectionsはさらにHorizontal(Side、Front、Rear)、Vertical(Floor、Ceiling)に分けられ、名前の通りそれぞれの面の反射音を示します。今回作成したスピーカーではVerticalが大きく乱れていますが、これはTW-WF間の距離が垂直方向に離れているためです。特に暴れが大きい床面に関しては厚手の絨毯等で対処する必要がありそうですね。この問題を根本的に解決するにはKEFやGenelecのような同軸ユニットが必要になるのですが、これまた巷に良さそうな同軸ユニットが存在しないため、現実的ではありません。

Sound power (SP)

 Sound powerはスピーカーから放射される音響エネルギーを表します。が、実際にリスニングルームでスピーカーを聴く場合は吸音や反射が不定なため、中高域における有用性が薄くなってしまいます。実際には次に説明すPredicted (Estimated) in-room responceが、リスニングルームでの測定結果とよく一致するとされています。

Predicted (Estimated) in-room responce (PIR)

 その名の通り、リスニングルームにスピーカーを置いたときに聴こえる音の推定を表します。PIRはLWを12%、ERを44%、SPを44%という重み付けをした加重平均であり、実際のリスニングルームでの測定に最も一致する割合となっています。つまりこのPIRが実際に部屋で聴いたときの聴感に近い……とされています。実際にはこの通りに聴こえるわけではなく、部屋の反射や定在波等によって大きく乱れます。

Estimated preference rating

 それでは最後にEstimated preference ratingをVituixCADで計測してみましょう。(少々CEA 2034-Aの解釈違いがあるようですが、大きくは影響しない様子なので、VituixCADの機能を使います)

 EPR6.21となり、目標の6.0を超えることができました。懸念していたLFXの上昇が無かったため、EPRの減少が最小限に保たれたことが大きかったです。また、SM_PIRの値が下がったのは、おそらくポートからの放射音の影響で500~800Hzのディップが生じたことが原因です。まさかここまで効くとは思っていませんでしたので、吸音材の配置は詳細に記録しておく必要がありますね。

 サブウーファーを追加した場合(with sub)は、8.45という非常に高いスコアを出すことができました。

Polar map

 最後に指向性の評価によく使われる、Polar mapを載せておきます。Verticalにおいて、クロス周波数付近でディップが存在するのがよくわかりますね。

まとめ

 Siva Project第一弾はいかがでしたでしょうか。限られた予算の中で最大限の性能を出すために今回はPreference ratingという指標を使いましたが、with subのスコアが8を超えてくると何か別の要素による評価が重要になると思われます。しかしながら、その要素については未だはっきりしていませんので、企業の研究結果を待ちたいですね。もしSiva Project第二弾をするのであれば、そういった部分に切り込んだ設計をするのも面白いかもしれません。

補足

 今回はweb連載という事で、かなり省略しています。より実用的な自作スピーカー設計の手法や作例については、好評発売中のマスターブックシリーズ各書にて詳しく解説しておりますので、ご参考いただければ幸いです。

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