マスターブックを読んだ方なら、クロスオーバーネットワークはVituixCADのようなシミュレータを使って設計することはご存じでしょう。クロスオーバーネットワークのLCR定数は「ネットワーク計算式」と電卓では求めることができません。
(知らなかった!という方は、とりあえずサイト内の動画をご覧ください)
ネットワークシミュレータを使った設計では、あらかじめ測定しておいたユニットの裸特性を読み込み、それにフィルターの伝達特性を掛け合わせることで音圧の周波数特性を求めます。そしてこの形状が所望のスロープになるようにLCRの定数を調整するという訳です。この調整は手作業でも出来ますが、VituixCADにはOptimizerという機能があり、自動で最適化してくれます。(あまり無茶振りをすると発散しますが...)
現代では一般的になっているこの設計手法のキモは、
1)ユニットの裸特性を読み込んでおく
2)自動で最適化する
という2点です。じゃあ、これを最初に行ったのは誰?という、いつもの疑問が湧いてきました。さっそくAES E-Libraryを検索すると...ありました。
“Computer-Aided Design of Loudspeaker Crossover Network”
G. J. Adams AND S. P. ROE
B&W Loudspeakers, Worhing, Sussex, United Kingdom
B&Wでしたか...
B&Wはたしか、世界で最初にコンピュータをスピーカー設計に取り入れた会社である、という話を読んだことがありますが、このことだったのでしょう。ちなみに、この論文で使われているコンピュータはPDP-11です。
この論文は1979年のAES Conventionで最初に発表されていますから、今から42年前ですね。この技術が現代のVituixCADに引き継がれていることは、先日紹介したKEFの疑似無響室測定が現代のARTAに引き継がれていることと並んで、実に感慨深いものです。
2021年の現代に生きる我々アマチュアスピーカービルダーが、こういった先人達の業績を利用しない手はありませんね。
『自作スピーカー マスターブック』シリーズ著者。AES(Audio Engineering Society)正会員。自作スピーカーと測定・クロスオーバーネットワーク設計に関するブログ「冬うさぎの晴耕雨読な日々」更新中。「MJ無線と実験」にスピーカー製作記事を連載中。