疑似無響室測定を発明したのは誰?

自作スピーカー 測定・Xover設計法 マスターブック」を読んだ方なら、インパルス応答測定を用いれば普通の部屋でも疑似無響室特性を測定が出来ることはご存じでしょう。

(知らなかった!という方は、とりあえずサイト内の動画をご覧ください)

普通の部屋で周波数特性の測定を行うと、ガタガタの特性しか得られないことはよく知られています。これは部屋の壁や天井で反射された音波がスピーカーからの直接波と干渉するからです。したがって、何らかの方法で反射波を取り除いてやればスピーカー本来の特性が得られるわけです。最も直接的な方法は無響室で測定することですが、これはアマチュアには手が出ない方法です。

一方、インパルス応答測定では別の方法で部屋の反射の影響を取り除いています。それは「壁や天井で反射された音波は、直接波よりも長い距離を伝搬する分だけ遅れてマイクに到達する」という性質を利用して、時間差で直接波と反射波を分離するというものです。この測定方法のことを疑似無響室測定と呼びます。

このコロンブスの卵的な着想を初めて知ったときには、心底驚いたのを覚えています。それ以来、この卓越したアイデアを最初に思いついたのは誰だろう?という疑問を長年持ち続けていました。そこでAESのE-Libraryを検索してみると...

直接波と反射波の時間差を用いて分離するというアイデアは、JPLのHeyserの1967年の論文が最初のようです。JPL(ジェット推進研究所)といえはNASAの宇宙探査の技術開発を担う研究機関ですから、なんでスピーカーの測定をやってたの?という疑問は残りますが、それはさておき、この論文で使われた手法はインパルス応答ではなく、スペアナを使ったTime Delay Spectrometryという手法でした。

現在我々が使っているようなデジタル技術によるインパルス応答測定を行ったのは、KEFのJ. M. Bermanの1975年の論文が最初のようです。KEF、さすがです。私はBerman氏をオーディオ界の偉人の一人として殿堂入りさせたい。Bermanの1977年の論文では周波数特性だけでなく、位相特性やCumulative Spectral Decayといった現在我々が使っている解析手法が示されています。ただ、このとき使われたのは現代のようなコンパクトなPCやオーディオインターフェースではなく、Hewlett-Packard製のtype 5451Bという巨大なFourier analyzerでした。

もうひとつ、このとき使われた測定信号は文字通りのインパルスで、波高値が60Vにもおよぶ単発パルスをバツンっと与えていたようです。よくスピーカーが壊れなかったものですね。

その後、インパルス応答の測定信号はMLS(Maximun Length Sequence)からSwept-Sine(又の名はTSP:Time-stretched Pulse)へと発展していくのですが、その話題はまたいずれ。

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