残念ながら今回の話題は「どのメーカーのスピーカーケーブルの音質が良くてオススメか」という内容ではありません。本稿は自作スピーカーのエンクロージャー製作と、内部での接続上、いくつかの理由により、使うべきケーブルとそうでないケーブルがあるという話をします。
目次
性能面からケーブルを考える
アンプとスピーカーの間は電力が伝送されます。等価回路に置き換えて市販のスピーカーケーブルの特性を数値化すると、主に以下の3つのパラメーターで見ることができます。
- 直流抵抗
- 静電容量
- インダクタンス
一つ目の直流抵抗は、電気抵抗のことで、導体に純銅を使っているケースがほとんどなので材質としては製品による違いはあまりなく、導体断面積が支配的です。当然太く短く配線すれば直流抵抗が少なくなります。抵抗が多いと伝送ロスが起こりスピーカーの音圧が低下したり、ウーハーの電磁制動が弱まり低域の音圧特性にも影響がありますが、いずれも実用上はわずかな変化です。二つ目の静電容量は2芯間がコンデンサーのように働くことで高域が減衰するのですが、実際にはオーディオ帯域ではほぼ無関係です。最後のインダクタンスも同様に高域減衰の特性になり、20kHzなど非常に高い周波数でわずかに減衰を招くことがあります。
では実際にはどのようなケーブルが求められるのでしょうか? 理論的考察の参考としていくつか紹介します。Linkwitz–Rileyクロスオーバーの発明者、Siegfried Linkwitz氏はケーブルの往復の直流抵抗を0.1オーム未満にすることをスピーカーケーブルのガイドラインにしています。
Linkwitz LAB – Speaker cables and interconnects
http://www.linkwitzlab.com/Amplifiers-etc/Connections.htm
カナレでは、ダンピングファクター(直流抵抗)の観点から、使用可能なケーブルの最大長を表で紹介しています。
カナレ カタログ - スピーカーケーブルの選び方は?
https://c.logosware.com/lg2nbn/41UUw/cPocG/html5.html#page=61
数メートルと長い距離を接続するスピーカーケーブルにおいては、直流抵抗値が選択におけるひとつの基準になることがあるようです。少なくとも一般的なメーカー製スピーカーケーブルは、実用範囲内において直流抵抗、静電容量、インダクタンスの値が極端に高くなることはあまりなく、基準を満たしていると考えられるので、極端に芯線が細いなどマニアックな製品を用いない限りは、内部配線においても、市販スピーカーケーブルを用いることで問題ないと考えます。
肝心のケーブルの音質の違いや、より高音質になるケーブルのスペックについては、趣味としてのオーディオの話になるので、読者の皆さんで判断していただくこととして、本トピックの核心、次は製作上の観点から見ていきます。
製作の側面から考える
内部配線用ケーブルは市販されていないので、いわゆるスピーカーケーブルを使うことになります。結論からいうと、以下の3点が重要です。
- 2芯ケーブルであること
- 芯線・被覆が太すぎないこと
- 芯線・被覆が柔らかいこと
内部配線(スピーカーケーブル)は、スピーカーユニット、ネットワーク、スピーカーターミナルなどに接続します。この際、ユニットやスピーカーターミナル側では、ファストン端子を利用することが多くなると思います。筆者は必ずファストン端子を使用しますが、中にはスピーカーユニットの端子に直にハンダ付けする、という方もいるでしょう。今回はファストン端子を用いていくつかの箇所を接続する、という前提で話をしたいと思います。
ファストン端子を使用する場合、専用の圧着工具を使用してケーブルとファストン端子を圧着します。この場合、芯線の部分と被覆の部分の両方がカシメられる必要があります。一つ目の「2芯ケーブルであること」の理由がそこにあります。もしカナレ4S6のような4芯ケーブル(スターカッド接続)の場合は、ホットあるいはコールド側で2つのケーブルを束ねる必要があり、芯線部分は適当に撚り合わせることができても被覆部分は一体にならず、ファストン端子の圧着が不十分になります。不十分な圧着は電気的接合の信頼性低下やメンテナンス性を低下させます。
二つ目「芯線・被覆が太すぎないこと」も、同様の考え方です。ファストン端子はユニットやスピーカーターミナル側の都合で使用可能なサイズは決まってしまいます。さらに、ファストン端子は対応するケーブルの太さがあらかじめ定められているので(16・18・20AWGなど)、それに入らないような太いケーブルは圧着が正常に行えず使うべきではありません(細すぎる場合も同様)。また、圧着の問題以外にも、太すぎるケーブルをエンクロージャー内に使用すると、ケーブルの曲げに対する反力が強く、接続部分でその負荷が高くなる場合があります。被覆が太い場合も同様です。例えばユニットの端子接続部分に負荷がかかり、酷い場合には部品が壊れてしまうケースもあります。
最後の「芯線・被覆が柔らかいこと」も重要な要素です。フルレンジのようにスピーカーユニットからスピーカーターミナルまでシンプルに接続できる場合はいいのですが、ネットワーク回路を実装するとボードの各所からケーブルがさまざまな方向に出ることがあります(もちろんそうならないように整ったレイアウトができればベストですが)。ネットワークボードをウーハーの穴から挿入、固定し、狭いエンクロージャーの中でケーブルを手繰り寄せてスピーカーユニットに接続する作業では、被覆が柔らかいケーブルの方が作業がやりやすくなります。それぐらいのこと、と思われるかもしれませんが、何度もユニットを外したり付けたりする自作スピーカーでは、このような作業性は重要な要因になりえます。同じくユニットや端子に加わる力にも関係し、硬すぎるケーブルは上記のようにユニットや接続部を壊す原因になります。ケーブルを選ぶ時、太さだけでなく、曲げた時の硬さも確認してみてください。
圧着工具の話
最後に圧着工具についてです。筆者は従来より下図(右)の専用工具を使っていましたが、圧着したはずの端子が抜けるのを何度も経験し、上からさらにハンダ付けをして防いでいました。ところが友人に薦められた新しいタイプの圧着工具(左)は、明らかに締結が強く精度良く圧着できました。価格も手頃なので、このタイプを使うことをお薦めします。今までの苦労は何だったのでしょうか? 道具を揃えるのは大事だということでしょう。
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SharkWire SNZ1.0
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『自作スピーカー マスターブック』編集者。