今回はスピーカーユニットをバッフルに対して段差なく取り付ける方法(フラッシュマウント)についてお話します。これは重要な意味を持っており、ぜひマスターしてもらいたい項目です。
目次
フラッシュマウントする理由は?
スピーカーユニットをバッフルと段差なく取り付けることをフラッシュマウントといいます(対してそのまま付けただけのものはサーフェースマウント)。
メーカー製のスピーカーを見ると分かりますが、ツイーターやウーハーはバッフルから出っ張ることなく取り付けられているのがほとんどです。それは見た目を良くするためでしょうか? いいえ違います。見た目もありますが、実はこのフラッシュマウントには秘密があります。それは周波数特性を改善する(悪化させない)という大事な要素が関係しているのです。
図の左側のように何もせずバッフルに取り付けた場合、主にツイーターの再生領域で周波数特性に、元々ユニットの特性にはなかった凹凸が発生します。ツイーターの円形フレームの角でエッジディフラクションと呼ばれる音波の回折により起こる音の干渉が原因でそのようになります。つまり、このような取り付け方をしているスピーカーは残念なスピーカーといえます。どのぐらい悪影響があるかは『自作スピーカー エンクロージャー設計法 マスターブック』第4章「エッジディフラクション」の項目でその一例のデータを見てください(もちろん程度の差があり薄いプレスフレームのユニットならあまり違いがないこともあるでしょう)。
では、自作スピーカーにおいてメーカー製スピーカーのように綺麗にユニットをツライチに埋め込むにはどうしたら良いでしょうか?
対処法1 電動工具で加工する
一つ目は、トリマーやルーターなどの電動工具を使って、バッフルに直接サグリ加工を行うことです。ユニットに合わせて正確な彫り込み深さを決めて加工できるのが利点ですが、欠点は工具を揃えるコスト、作業環境の構築、加工の難易度があります。さらに刃物系の電動工具の危険性の問題は避けられず、お薦めできる方法ではありません。
対処法2 バッフル2枚重ねで対処する
二つ目の方法は、バッフルを2枚重ねにする方法です。この方法は4~6mm厚の薄いバッフルをもう1枚追加することで、ザグリの状態を実現します。接着の回数が増えるのが欠点ですが、木材カット加工を発注する際に一枚薄い板を追加するだけなのでコストも極端には増えず、推奨できる方法です。
バッフルの重ね合わせは基本的には同じ木材を使うのが前提ですが、場合によってはアクリルや金属素材を使用することもできるかもしれません。
微調整には紙製スペーサーを使う
この方法の欠点は、ツイーターのフレームの厚みとピッタリの板厚が常に確保できるとは限らない点です。例えば材料がMDFの場合、2.5、4、5.5、9mmなどと板厚が規格化されています。使いたいツイーターのフレーム厚は3mmや6mmかもしれません。そのような時に使えるのが、紙製スペーサーで微調整する方法です。紙製スペーサーを製作するにはまず、0.5~0.7mmの厚紙を準備します。以下の道具も必要です。
- コンパス
- OLFA コンパスカッター
- 皮抜きポンチ
- 金づち
- カッティングボード
作り方
最初にコンパスで罫書きを行います。①バッフルにあけた直径 ②ツイーターバックチャンバーの直径 ③ボルト穴のためのピッチ円直径(PCD)の円 をそれぞれ描いてください。④円の中心からボルト位置を示すように対角線を引きます(下の写真の場合は4カ所。PCDの線と交わった点が穴をあける場所です)。
次にコンパスカッターを罫書きに合わせてくり抜くサイズにセットし、初めに外側の円をカットし、次に内側をくり抜きます(順番を逆にしないように…)。厚紙は一周ではカットしきれないので何度もカッターの刃を当てる必要がありますが、手を切らないように慎重に作業してください。最後にボルト穴部分はポンチで叩いてあけてください(使用するポンチのサイズはボルトよりも大きめが良いでしょう)。ちなみにこのぐらいの厚みの紙はハサミや普通のカッターではうまく制作できません。
設計時のポイント
紙製スペーサーを使う前提で設計する場合は、ウーハーのフレームの厚みを基準に薄いバッフルを用意しておき、フレームがより薄いツイーター側に厚紙を入れて調整する方法が好ましいでしょう(もし逆の場合があればウーハー側にスペーサーを入れるため加工の難易度が高くなるかもしれません)。結局ユニットの厚みと市販板材の厚みとの組み合わせによって選択肢が決まりますが、常に優先度が高いのはツイーターです。最終的にツイーターがツライチになるよう設計・製作してください。ウーハーは多少飛び出ても諦めて構いません。
また、ツイーターによってはフレーム裏にスポンジが付いているものもあります。この厚みはあらかじめ算出しにくいので、実際に紙製スペーサーを挟んでみて試行錯誤する場合もあります。このため当初の計算よりもスペーサーの枚数が多くなったり、厚みの変更をする場合があることは想定しておいてください。
このようにして、スピーカーユニットをバッフルに対してツライチになるように設計・製作することができます。理論的なアプローチで自作スピーカーを設計・製作したい場合は必須の工程なので、ぜひ取り入れるようにしましょう。
『自作スピーカー マスターブック』編集者。