【上級者向け】
Linkwitz Transformで密閉型の低域を操る①

本稿は上級者向けです。『自作スピーカー マスターブック』 シリーズにも掲載していない内容になります。

Linkwitz Transformは、クロスオーバーネットワーク「Linkwitz–Rileyフィルター」発明者・Siegfried Linkwitz氏が考案したスピーカーの低域特性を最適化する回路、またはその方式のことをいいます。自作スピーカーでは、低域をいかに出すのかが腕の見せ所だと思います。本稿で紹介するLinkwitz Transformは密閉型のスピーカーで実装でき、バスレフ型には使えませんが、低域特性を簡単に拡張できる技術です。この機能を実装するには、プリアンプとパワーアンプの間にオペアンプで構成されるアナログ回路を挿入するか、DSP(Digital Signal Processor)を使用します。ここで実装される回路は単純に低域をブーストする特性をもったイコライザーです。

Linkwitz Lab -Linkwitz Transform-
http://www.linkwitzlab.com/filters.htm#9

目次

密閉型の低域特性モデル

まずは密閉型スピーカーの低域特性から見ていきましょう。密閉型の低域特性は、大きく見ると-12dB/octで音圧が減衰する2次のハイパスフィルター(ローカット)の特性であるといえます。現在主流のダイナミック型スピーカーは、このハイパスフィルター特性から逃れることはできず、必ず低い周波数がカットされる特性を持ちます。低域が十分に再生可能な大型ウーハーは低いfs(最低共振周波数)を持ち、逆にツイーターはfsが高いことは承知の上ですが、いずれにしてもスピーカーユニットは“ハイパスフィルター特性を持つ装置”といえ、その程度が異なるだけです。

自作スピーカー 測定・Xover設計法 マスターブック』でクロスオーバーネットワーク設計を解説しました。エンクロージャーに入れたスピーカーの周波数特性を測定し、最終的な音圧特性(Acoustic Slop)が目標値となるよう、ネットワーク回路(Electrical Slop)を設計する、という手法です。つまり設計時に電気回路だけ論じても無駄で、スピーカーというフィルター装置と包括的に考える必要があるというものです。今回紹介するLinkwitz Transformも同様の考え方を適用することができます。

密閉型の低域特性を、詳細は簡略化し論理分解すると、このような折れ線グラフで表示できます。ここでは周波数f1から減衰が始まります。また、f1からf2の間を1オクターブとすると、その幅の音圧減衰量は12dBとなります。

アンプからの低域信号をブーストする

では次に、低域の信号のみブーストして、アンプ出力を変えた時を考えます。下図のように、持ち上げ始める周波数をf1、持ち上げ終わり周波数をf2に設定し、いわゆるシェルビングフィルターを作ります(もちろん実際には折れ線ではなくスムーズな電圧特性です)。f1とf2を折れ線地点として設定したので、トータルのブースト量は12dBになります。

合成特性は?

上図の青線(元のスピーカー特性)と赤線(アンプの出力特性)を足し合わせてください。0dBを基準に足し算をするだけです。答えは簡単。下図の緑線のようになります。

元の青点線から緑線の状態になり、低域が拡張されました。アンプで低域をブーストしたらスピーカーの低音が出るようになるのは当たり前じゃないか、と言われそうですね。確かにアンプの機能で低音が増えるのですが、Linkwitz Transformでは元のスピーカー特性に合わせてブースト回路を設計する理論的な手法を取ります。この図でも分かる通り、低域が盛り上がることはなく、周波数レンジを伸ばせている点に着目してください。量が増えたのではなく、下限が伸びたのです。詳細の解説については次回に続きます。

さて、ここで一つ問題です。
fc=80Hz(fc:密閉型スピーカーの最低共振周波数)の小型密閉型スピーカーがあります。アンプのブースト量が12dBのフィルターを組んで駆動した場合、最終的なスピーカーの低域限界は何Hzになるでしょうか?

※机上で思考実験するのは面白いと思います。なお、今回はプレゼントはありません。

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