クロスオーバー発展編②
―アクティブクロスオーバー回路をVituixCADでシミュレーションする―

VituixCADの画面。コイル、コンデンサー、抵抗ではなく、アクティブ型の要素を配置していく

前回の投稿ではパッシブ型とアクティブ型の違いを説明しました。今回はVituixCADでアクティブクロスオーバーネットワークの設計を行う手順を解説します。また、実際に電気回路を実装するASPタイプではなく、デジタル演算処理ができるDSPを使うことを念頭に進めます。

目次

VituixCADのCrossover画面でアクティブクロスオーバーを組む

まず初期設定として「Options」の画面で、自分が使用するDSPの種類を選択します。

miniDSPの場合はSample rateが48kHzと96kHzの2種類がある。「miniDSP 2×4」が48k、「miniDSP 2×4 HD」または「miniDSP 4×10 H」が96kに相当する。

それでは画面を追いながら解説していきます。今回のモデルは『自作スピーカー エンクロージャー設計法 マスターブック』の表紙になっているScan-Speakの作例の測定データを元にしてシミュレーションします。

ウーハーの周波数特性です。エンクロージャーに入った状態で測定されています。擬似無響室測定のデータなので200Hz以下の低い周波数は無効領域です。無視してください。パッシブ型の設計では必ずインピーダンス特性も取り込んでおく必要がありますが、アクティブ型では必要ありません。
次にターゲットスロープを表示します。「Optimizer」から、ローパスフィルターとして、24dB/oct Linkwitz-Riley(LR4)のスロープ、クロスオーバー周波数は例として2kHzと設定しました。ピンク色に見えるのが目標とするスロープです。このスロープに合うように回路を設計したら良い、というのはもうお分かりですね?
フィルターのアイコンの一番左上に「Active Low pass」があります。選択して設置します。「Shape」ではButterworth(BW)やLinkwitz-Riley(LR)などのスロープの種類を選択。その右の「N」はフィルター次数を表します。アクティブ型ではここで表示されるものしか選択できず、その間の特性は存在しません。また使用するDSPによっては選べないフィルターもあるので、事前に確認しながら設計時に選択してください。さて、ここではButterworthの3次を選択し、周波数を1551Hzに設定すると、大まかなスロープは合致したことが確認できます。しかし、肩部分の音圧が高く、まだ調整が必要です。
続いて緑色の線のアイコン「Active Peak/Notch」を選択、設置します。これはパッシブ型フィルターでいえば特定周波数を減衰させるノッチフィルターですが、アクティブ型フィルターの場合はピークとディップの両方が可能です。DSPではパラメトリックイコライザー(Parametric EQ)と呼ぶことが多いでしょう。ここでは周波数(f)を1000Hz、ゲイン(A)を-3dB、尖鋭度(Q)を2と設定しました。まだ不十分なので、調整を続けます。
パラメトリックイコライザーの設定を、周波数(f)を1020Hz、ゲイン(A)を-6.26dB、尖鋭度(Q)を1.51と設定すると、スロープはかなり合致しました。ウーハー側の設計はこれで良いでしょう。
同様の方法で、ツイーターにハイパスフィルターを設置します。ここではButterworthの3次を選択し、周波数を2587Hzに設定し、合成特性はこのようにフラットが確認できました(ツイーターのアッテネーションとして「Drivers」のScalingで-6.3dBの調整も入っています)。
ターゲットスロープは24dB/oct Linkwitz-Riley(LR4)でした。このクロスオーバーでは、ツイーターとウーハーは共に正相接続でフラットに合成されますが、ツイーターを逆相接続した際に出現する深いディップ、リバースヌルを念のため確認してみましょう。結果は、ローパス、ハイパスともかなりターゲットスロープに近いにもかかわらずディップが深くありません。つまりクロスオーバー周波数で位相が完全に一致していないわけです。この理由は簡単です。タイムアライメントが一致していないからです。ツイーターとウーハーをバッフル面一でデザインした場合、ウーハーがやや音響的に遠くなるのが一般的です。この問題をDSPは簡単に解決します。ディレイの設定を行うのです。
多くのDSPでは信号を遅延させるディレイ機能を実装しています。VituixCADの「Driver」タブに戻って「Delay」の部分に、今回は65μs(22mm相当)を設定しました。この状態では完全にクロスオーバー周波数で位相が合致し、深いリバースヌルが出現しました。
ディレイを設定した状態で、再度ツイーターを正相接続に戻し、合成特性を確認します。しっかりフラットに合成できていることが確認できます。今回使用したユニットはクロスオーバー回路が組みやすい優秀なユニットで、ここまででアクティブ型フィルターとして設定した項目はたった3つ(ディレイとツイーターのアッテネーションを除く)しかありません!
10kHz付近の盛り上がりが気になる場合は、もう一つパラメトリックイコライザーを挿入し、微調整することができます。フィルターは何段にも重ねることができるため、かなり細かな調整が可能になります。この他には、バッフルステップ補正などにも用いられる「Active Shelving Low pass」いわゆるシェルビング(シェルフ)フィルターや、密閉型の低域特性をイコライジングで操作するLinkwitz-Transformなどもあります。

設計時の心構え

  • ローパス・ハイパスはプリセット(BW、LR、Bessel/1次、2次、3次、4次など)から選択するしかない
  • パラメトリックイコライザーやシェルビングフィルターを併用してスロープを合わせる
  • パラメトリックイコライザーなどの設定可能な数の上限はDSPによって異なるので事前に確認しておく
  • 最後にツイーターにディレイを入れてクロスオーバーの整合性を高める

アクティブクロスオーバーのポイント

  • アクティブ型では、ゲインアップ(ピーク)の特性を作れる。これはパッシブ型にはない利点
  • スロープを作る際にフィルターは多段階化して使うことでプリセットにはない間の特性を得られる(例えばLR2はクロス点は-6dB。BW2は-3dBだが、-5dBでクロス点を持つスロープは、どちらかのスロープにパラメトリックイコライザーを追加挿入することで実現できる)
  • クロスオーバーはさまざまなフィルターの重ね合わせで実現され、その途中経過を問わない。DSPでもパッシブ回路並みの特性は実現可能。使い方を工夫するとさらに最適な結果を生む

次回は得られたフィルターの値をDSPに設定していきます。

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